Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

    “秋の終わりの金色の”
 


季節の移り変わりに“いつの間にやら”とはよく言うが、
今年に限っては なかなかに順当な気がする、秋からこっちの訪のいで。
平均値を見れば久し振りの“冷夏”だったらしい夏の終焉、
どうせ残暑が長々続くのだろうと思っていた人々の不意を衝き、
いきなりの気温降下で涼しくなったのを皮切りに。
多少は暑い日もありながら、
それでも過ごしやすいままに九月が過ぎゆき。
秋らしい装いに我慢がさほど要らなかった、
それどころか 紅葉が進まないのが遅いと感じられたほど
人々の気持ちが先行した格好で、木枯らしが吹く頃合いを迎えた観があり。

 「ホットメニューも、結構早くから定番化しているものねぇ。」

いつもの秋だと“まだ早いよね”と見越して、
メニューに載せはしても、それほど仕込みはしない 10月初め辺りから、
カプチーノやカフェラテ、ミルクティーのみならず、
ココアやマキアート、豆乳ラテまで、
随分と早い時期からホットが出だしたし。
そちらは流行もあるのかもしれないが、
パンケーキやフレンチトースト、ホットサンドもいい売れ行きで、
代わりにフラッペの類が あっと言う間に退場と相成ったのは、
ここ、茶房“もののふ”でも見られた傾向で。

 「そろそろホットパイとかグラタンメニューも
  始めなきゃだねぇ、マスター。」

 「任せろ。」

お料理に関してどんどん腕を上げておいでのお髭のマスター、
冬向けのメニューもどんと来いだということか、
ベストスーツに合わせた白シャツを腕まくりしたまま、
しっかと頷いて見せるのが何とも頼もしい。
最寄りのバス停を利用なさる女性陣は、
そのまま沿線にある高校や短大の学生さんたちが主流なため、
ちょっと一息と立ち寄ってくださるのは昼下がりから。
よって、この時期の、しかも正午前というと
モーニングも終えての閑散とした店内になるため、
その間に午後の仕込みを手掛けたり、簡単な掃除に手をつけたり、
早めの昼食をとったりになるスタッフご一同。

 「そういや、夕方の短期バイト、そろそろ募集かけないの?」

助っ人だったはずがいつの間にやら正社員扱いの妖一郎さんが、
いかにもカフェのギャルソンっぽい、マキシの黒エプロンも決まったお姿にて、
カウンターへ戻って来ると、そこでグラスを磨いていた七郎さんへと声をかける。
年末や学期末といった繁忙期だけ来てもらう男子バイトというの、
秋の終わりというそろそろ募集するのがセオリーな当店だが、
ポスターを貼るとかいう方法ではなく、
前任者からという完全紹介制のクチコミ方式を取っていて。
女性客が多いのと、ちょっと微妙に事情ありな方々が経営しているがため、
詮索好きとか、ドタキャンしまくりとか、
いい加減な人性のお人には近づいてほしくないからで。
そんな紹介で来たお人へ、更に問われるのが、
真面目で誠実、されど柔軟で臨機応変が利く人、なんていう、
結構レベルの高い選考基準なのだけど。
その代わり、時給は桁外れだし、
一体どんなコネをお持ちだか、
身内じゃないと入手困難なほどの限定品や、
一見さんはお断り的な高級店の予約、
有名ミュージシャンや俳優が招かれている特別レセプションへの参加など、
それはあっさり話を通してくださるミラクルを、
こっそり叶えてもくれるため。
学生さんの側としても、
中途半端なお喋りになぞ
勧めてたまるかと思ってくださりもするようで。

 「うん。次の連休辺りから ぼちぼち入ってくれる予定だよ。」

クリスマスや年末にも来てくれるような殊勝な子ばかりだから、
本当に助かるよねと、七郎さんが細おもてを嫋やかにほころばせれば、

 「何の、どこの体育会系だか、女っ気がないだけじゃね?」

鋭角なお顔をちょいと意地悪く歪ませて、
ケケッという擬音が似合いそうな笑いようをする妖一郎さんだが、

 “人のことを言えないじゃないの。”

自分だって、学生時代はアメフト三昧だったし、
社会人になればなったで、
その身体能力を生かして やや危険なことばかりを手掛けており。
よくもまあ、あんな出来た奥様を射止めたことよなんて、
いまだに奇跡呼ばわりされてるくせにねと、
金髪に色白と言う要素だけは似ているものの、
そちらさんはいかにも優しい印象のする美丈夫さんが、
しょうがないなぁと苦笑をしたところへ、

 「たらいまぁ〜。」

そりゃあ愛らしいお声がし、
カウベルをコロロンと鳴らして外からのドアが開く。
バス通りには、それへと寄り添うイチョウ並木が連なっていて、
今はちょうど、弾けるような鮮やかな黄色の色づきも麗しく、
足元には逆三角形の落ち葉がたんと降ってもいるので、
それを拾うのだと、当家の小さな王子が出掛けていたらしく。

 「ああ、ヨウちゃん、ご苦労さん。」

まだまだ小さな坊やを、一人で行かせちゃおりません。
その縁にフリルみたいな細かいナミナミのついた
綺麗で大きいのを選んだらしきイチョウの葉っぱ、
まるで花束みたいにして 小さな手へぎゅうと束ねておいでの
お父さん似か、こちらもやはり金の髪した愛らしい坊やの。
もう片やの手を引いて戻って来たのが、
兄弟かと見紛うくらい雰囲気のよく似た金髪坊やで。
この一団が集まっていると、

 “アフガンとか 手入れのいいゴールデンレトリバーとか、
  高級そうなワンコの集まりに見えるのは俺だけだろうか。”

一番のしんがりとして店内へ入って来た、
小さな王子たちのボディガードを請け負ってたらしい
黒髪の大学生のお兄さんが、
しみじみと傍観者の位置からの見解を述べてみたり。

 「葉柱くんもありがとね。コーヒーとおやつどうぞ。」

重々しげな革のジャケットが、
なのにしっくり似合っている着こなしが、
何とも頼もしくてならぬお兄さんは、
日頃はアメフト漬けなのだが、今日は息抜きの調整日だそうで。
じゃあ遊びに行こうと、
そちらも授業が半分だった妖一坊ちゃんから引っ張り出されたのが、
それは静かな郊外の、こちらまでのバイクでのツーリング。
大学のアメフトリーグも一応の終盤で、3部は22、23日が最終戦。
2部2ブロック7、8位と
3部4ブロックそれぞれ1位4チーム同士で行われる入れ替え戦が、
12月の3、4日に催され。

 「トップとビッグのチャレンジマッチと
  同じ日にかぶってるのが憎たらしいよな。」

むむうと やわやわな頬を膨らませる妖一くんなのへ、
お外の寒風に冷えてた頬っぺ、
マシュマロを浮かせたココアで温め中だったくうちゃんが、
真似をしてか同じように ぷうと膨らませて場が和み。

 「まあでも、シーズンが終わるのだね。」

大変だったでしょう、お疲れ様と、
あごのお髭も渋くて似合いの年頃だが、
若いころは何か極めていたに違いない、
今なおかっちりした上背のマスターさんが
グリルサンドを出してくれつつ、
そんなねぎらいのお言葉をくださって。
や、これはどもと、案外と朴訥なお辞儀を返すのがまた、
何とはなく場を和ませる中、
充実の秋が 音もなくのこっそりと、
冬へとバトンタッチをしていたような、そんな午後……。





    〜Fine〜  14.11.19.


  *ハロウィンとクリスマスの狭間といいますか、
   何とはなくほっこり出来る頃合いですが、
   のんびりしてるとあっと言う間に師走ですよね。
   お商売している方々は
   もう色々と仕込みに奔走してなさるのでしょうが、
   こちらの皆様は まだまだのんびりというところらしいです。


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